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序 海外文学ベスト100を読んで
◆ 海外文学ベスト100達成
2015年末、海外文学ベスト100の最後の本を読み終えました。2008年、『考える人 海外の長篇小説ベスト100』の発売から7年。それ以前に読んでいた本は除外したので(20冊程度)、100作品を7年で読んだわけではありません。また、海外文学だけをコツコツと読んでいたわけでもなく、日本文学、哲学、自己啓発、ビジネスなど他のジャンルの本も読んだりもしています。
◆ 意外に険しい道のり
どのように海外文学ベスト100を読んでいったのか? それをお話しする前に注意しないといけないのは、ベスト100と言っても100冊ではないのですよね。しかもこのサイトでは、より一般的な名称「海外文学」と言い換えていますが、もともとこのランキングの正式な名称は「海外の長篇小説ベスト100」。そう、「海外の長篇小説」なのです。冊数でいえば、1作品で10冊を超えるものもいくつかあります。これがわかった時点で、心が折れそうになりますよね。(笑)
このサイトに来て、この文章を読んでいるあなたは、きっと本がお好きなのでしょう。ベスト100全部を読んでみたいと思うかどうかはわかりませんが、少なくともいくつかは読んでみたいとは、思っているのではないでしょうか。あるいは、今まであまり本を読んでいなかったんだけど、これから海外文学を読んでみたいと思っているのかもしれませんね。
◆ 自分らしく読む方法
この険しい道のり「海外の長篇小説ベスト100」をどう読んでいったのか? 私はこのように読みました。
- 読む目的を決めて、それを基準にマイルールをつくる。
- 100作品をいくつかのグループにわけて、グループごとに読破していく。
あくまでも自分の基準で「自分らしく」読んでいく。この点を意識することで、読書が「苦行」になることなく、100作品を達成することができました。
あなたも「あなたらしく」読んでいくことで、自分の目標を達成できるはず。蛇足かもしれませんが、これは、趣味、スポーツ、受験、恋人探し、婚活、就活、仕事などあらゆる目標達成に使える方法でもあるでしょう。「すべての道はローマに通ず」 まずは、本を読むことからはじめてみませんか?
1.“あなたらしく” 読む方法
【5位】『城』 フランツ・カフカ
1.-1 何のために本を読みますか?
◆ 本を読む目的
読みたい本はすぐにもページをめくりたくなりますが、読み始める前にまずはこれを確認してほしいのです。それは「本を読む目的を明確にする」です。自分なりの読書の目的を意識していないと、あとで読書しているときに辛くなることがあり、そうなれば当然モチベーション(意欲)も低下してしまいます。
あなたが読書をする目的は何ですか?
「面白いから」「教養として」「ためになるから」など、それぞれいろいろあると思います。
ここでは長篇小説、文学なので、面白い、楽しいなどの娯楽的価値、美的、感動するなどの芸術的価値、その小説を知るという知識としての教養的価値、生きる、人生のヒントを求める哲学的価値などがあるのではないでしょうか。その他、小説家になりたいから読むとか、語学を勉強するために読むといった学習的価値などもあるかもしれません。
◆ 何に価値をおくか
あえて、ここで「価値」という言葉を使いました。つまり、自分にとっての文学の価値を意識すれば、その価値において評価ができるわけです。例えば、文学を娯楽としてとらえている人は、文学を面白いか面白くないかの価値基準で判断することができます。芸術なら美しいか美しくないか。教養なら知識として得られるものがあるかないか。哲学なら生きること人生のためになるかならないか。
◆ 読書の価値と目的を決める
それぞれの人が文学に何の価値をおくのかによって、同じ本でもその価値はバラバラに違うものになります。もちろん、ひとつだけの価値ではなく、複合的に価値をもっている人もいるでしょう。それぞれの基準が多角形のグラフで表わされるレーダーチャートのように無意識に判断している人もいるかもしれません。
自分は何のために本を読んでいるのか?
読書の目的、それを意識してみてください。
【4位】『ドン・キホーテ』 ミゲル・デ・セルバンテス
1.-2 カテゴリ分けと目標設定
◆ 具体的な目標設定
前回、読書の目的と価値基準を意識してもらいました。言葉としては堅苦しいかもしれませんが、誰でも意識するしないにしろ潜在的に考えていることでしょう。その価値を前提として、ずらりと勢揃いした海外文学の名作に挑みます。
次に行うのは具体的な目標設定です。
- 「海外文学ベスト100完全制覇」
- 「ベスト10だけ読んでみる」
- 「ベスト100のうち、ロシア文学を読む」
- 「ベスト100のうち、19世紀文学を読む」など。
ここで、100作品すべてを読もうとされない方は、あるカテゴリやグループで分けることが決め手となります。
◆ カテゴリ、グループ分け
100作品に挑む方でもまず「19世紀文学制覇」とか、「ベスト20まで」とかカテゴリやグループで分け、ひとつずつ達成していくのもモチベーションを保つためにも有効です。
注)当サイトでは、ベスト100をタグにより世紀、国別に分類しています。
私もこの方法で臨みました。大きな目標を達成するポイントは、小さなグループやリストを作ってそれを一つずつ達成していく。このように取り組みやすい読書プランを考えてみましょう。
◆ 期限とご褒美
読書スケジュールを設定したい方は、期限を設けるのも有効です。例えば、3か月後まで、今年中に、など期限を決めて目標を達成するようにします。
達成した後、ご褒美を用意して自分を祝ってあげるのもいいでしょう。ちょっとしたことですが、達成をクセ付けするコツです。私の場合は、「祝杯をあげる」です。(笑)普段、家ではあまりお酒を飲まないようにしているので、このときばかりはビールやワインでお祝いします。
読書以外でも大きい目標を達成した時は、ちょっとしたモノを買うか、思い切って旅行などに行ってしまいます。旅行の場合は、日程を決めてしまい、宿の予約などは早々と済ませます。不思議と旅行までには何としても終わらせたいと、がむしゃらに頑張れるんです。これは、かなりモチベーションがあがりますよ。
【3位】『カラマーゾフの兄弟』 フョードル・M・ドストエフスキー
1.-3 マイルール
◆ マイルールの設定
次はいよいよ、「あなたらしく読む方法」の一番重要なポイント、マイルールの設定です。
「え? 読書にルールなんて必要なの?」
なんて声が聞こえてきそうですが、必要なんです。通常の読書は、読みたい順に読んでいくとか、ほとんどがなんとなく、自然と、自由に読んでいきますね。今回の「海外文学ベスト100などを読む」などの目標設定は、ある意味、自分の外の世界からリストを渡されて設定させられたものです。そのリストの中には自分の趣味ではない、普段選ばないような本も含まれていることでしょう。だから自分の意欲からすると、不自然なんですね。その不自然な、もっと言ってみれば強要されたものを、できるだけストレスがかからないように読み進める必要があります。
そこで登場するのがマイルール。
◆ マイルールの具体例
私の決めたマイルールはこれです。
- 数巻にもわたる長編で、読み進めるのがきつそうなものは1巻でやめる。
- 数巻にもわたる長編で、特に読みたいもの以外で抄訳がある場合はそれを読む。
- 読むのがきついものは、流し読み。
- しっかり読まなかったものについては、ネットなどであらすじを確認する。
注)抄訳(しょうやく)、部分的に翻訳されたダイジェスト版。
「え? ちゃんと読んでないの? ずるい~!」
なんて声がまた聞こえてきそうですね。(笑)ここで、最初に確認した、読書の目的とその価値観を再確認しましょう。そもそも、この読書の目的と価値基準は何でしたか?
本が娯楽的価値なら、面白くない、楽しめないならやめるべき。教養的価値なら、知識的にどんな話か知れば十分。哲学的価値なら、自分の人生にとって得るものがなければ、人生の貴重な時間を無駄にしない。
◆ 主体的な読書
読書は、自分本位、主体的であるべきです。
ここで挙げられた海外文学は外から設定されたものでも、その海外文学を読もうと決めたのは、他ならぬ自分です。仮に他から強要されてしまったことがあって、それに従順でありつづけるなら、モチベーションは落ちます。
その場合、自分の本来備わっている能力、考える力、感じる力を発揮することも難しい。脳科学からみても、主体的であることはとても重要です。マイルールをつくる際のポイントは、読書の目的、価値基準からブレないことです。
仮に芸術的価値を置いている人が、話としては面白くはないが、文章表現に価値があると評価するならば、その本を読みきれるでしょう。
さあ、自分本位のマイルールをつくってみましょう。
「50ページ読んで、つまらなければやめる」※
これでも全然構わないのです。
注)※つまらない=自分がその価値を評価しない
2.意外な落とし穴
【2位】『失われた時を求めて』 マルセル・プルースト
◆ 買えない、本棚に置きたくない
今までに、読書の目的と価値基準を決め、何を読むかの具体的な目標設定をし、読書プランをたて(期限とご褒美も決め)マイルールをつくりました。
さあ、これで読むだけです。
でも、実際には、ちょっとしたことというか、人によっては大きなことですが、意外に陥りがちな落とし穴があります。
これを読んでる方は、学生の方も結構いらっしゃるかもしれません。お小遣いも限られていませんか? 社会人でも本をたくさん買えない、あるいは買いたくない場合もありますよね。海外文学、文庫本ならまだしも、ハードカバー、しかも複数冊だと結構高くつく場合があります。
また、読書好きにもいろいろなタイプがいると思いますが、ある種のコレクション癖というか、本棚にこれは置きたくないとかありませんか?
私は岩波文庫が好きで、海外文学なら背表紙が赤ですが、本棚の赤い背表紙の幅が増えると嬉しくて、その他にも緑や青とのバランスにこだわったり、本棚一面に岩波文庫のあの黄土色を感じるともう……。あっ、失礼、ちょっと取り乱しました。
でもあなたもひょっとして、澁澤龍彦や松岡正剛の書斎に憧れちゃったりしてませんか? うちは坂口安吾だな、なんて方もいますかね。(笑)このように読書好きの方には、本棚や書斎、本の置き方などに結構こだわる人も多いですよね。
◆ 図書館を利用しよう
海外文学ベスト100を読んでいく上でこれは買えないな、あるいは、これは自分の本棚に置きたくない……
そんな時は、図書館を利用しましょう。
私は、もともと本は買うタイプで、最初、借りるのは結構抵抗があったのですが、何十巻もあるものを買うのは大変ですし、買いたくない本もあったので、図書館を利用するようになりました。例えば、74位 カーソン・マッカラーズ 『心は孤独な狩人』は、2015年時点で絶版なので、これも図書館を利用しました。
そして、これはあるものに限られますが、ネットで無料で読める青空文庫、無料のKindle本なども便利です。
◆ 自分なりの読書スタイル
買うという問題の他には、読む場所の問題もあるかもしれません。例えば、家だとテレビや音楽の誘惑に負けてしまいあまり読めないとか。図書館やカフェを利用したり、通勤電車の中で、お風呂で半身浴しながら読むなど、自分なりの読書スタイルを確立することも日常的に読書を続けるコツですね。
読むこと以外で、ちょっとした障害があるようなら、回避できるようなサービスの利用や仕組みを考えてみましょう。
3.“あなたらしく” 読む方法のまとめ
【1位】『百年の孤独』 ガブリエル・ガルシア=マルケス
◆ “あなたらしく” 読む方法のまとめ
最後に、これまでの内容をまとめてみます。
「あなたらしく読む方法」
1.何のために読書するか、読書の目的と本の価値基準を明確にする。
(例:娯楽的価値、教養的価値、哲学的価値、その他)
2.どれを何冊読むかなど、具体的な目標を立てる。
(目標設定・グループ分けし読書プランを設定)
<スケジュールを立てたい方>
その目標達成の期限を設定し、ご褒美を決める。
(読書スケジュールを設定)
3.マイルールをつくる。
(読書の障害やストレスを回避するルールを設定)
4.必要な場合は、図書館の本の利用も検討する。
(買うこと、読書とは直接関係のない障害を回避するサービスや仕組みを検討)
◆ “あなたらしく” 読む方法の具体例
つぎに、例として私の場合を記してみます。
「自分らしく読む方法」 ~私の場合~
1.何のために読書するか、読書の目的と本の価値基準を明確にする。
私の読書の目的は以下である。
- 生きる、人生とは何かを知る、そして考える(哲学的価値)
- 海外文学の名作(ベスト100)がどんなものであるか知る(教養的価値)
2.どれを何冊読むかなど、具体的な目標を立てる。
- 私の好きな19世紀文学の制覇をまず目指す。
- 次は19世紀より前の古典の制覇を目指す
- その後20世紀文学の制覇を目指す。
注)スケジュールは月単位でどれを読むか大体決めていた。
3.マイルールをつくる。
- 数巻にもわたる長編で、読み進めるのがきつそうなものは1巻でやめる。
- 数巻にもわたる長編で、特に読みたいもの以外で抄訳がある場合はそれを読む。
- 読むのがきついものは、流し読み。
- しっかり読まなかったものについては、ネットなどであらすじを確認する。
注)抄訳(しょうやく)、部分的に翻訳されたダイジェスト版。
4.必要な場合は、図書館の本の利用も検討する。
- 特にあまり好きではない(笑)20世紀文学では図書館を結構利用した。
- 本を読む場所は、自分の部屋が一番落ち着いて読める。
◆ さあ、海外文学を読んでみよう
いかがでしたでしょうか。ここまで「海外文学ベスト100を “あなたらしく” 読む方法 (読書法・読書術)」と題し、私がどのように読んだのかをご紹介しました。
「価値基準」、「目標設定」なんて言葉を聞くと仰々しい感じもしますが、「どれ読もうかな」と読書リストをつくっていくことは結構楽しいです。何よりも本をどんどん読んでいくのは充実感や達成感を感じます。
読書を自分なりの価値観で、読書に対するハードルを少し下げて、普段自分が選ばないような意外な良書に出合う。そのためのルートを自分で見つけ、自分のペースで読んでみようということです。
さて、ここにあなたにぴったりな100作品のリストがありますね。